「定量調査」と「定性調査」はどう違う?
有益な情報を得る方法

「定量調査」と「定性調査」はどう違う?

企業が市場調査やマーケティングリサーチを行う際に知っておきたい手法が「定量調査」と「定性調査」です。数値で結果が得られる定量調査に対し、ユーザーの心理面を深く知ることができるのが定性調査で、それぞれに活用方法や意味合いが異なります。双方を組み合わせることで、より有益で精度の高い情報を得られることがポイントです。

まずは定量調査と定性調査の特徴の違いを押さえましょう。

定量調査とは、アンケートなどによって収集されたデータを、数値化して分析する調査方法です。ある回答を選んだ人数や割合を、数値や量として明確に表し、全体像や一般論を理解する目的で用いられます。定量調査には、「全数調査」と「標本調査」があります。全数調査は、国勢調査のように対象者すべてに対して実施するもので、費用と時間がかかるため民間で行われることは少なくなっています。「標本調査」とは、全数(母集団)の中から抽出した一定数の集団(標本)に対して行い、標本の結果から母集団の傾向を分析するものです。母集団に調査を行った場合に得られる結果と、標本調査の結果には必ず誤差が生まれます。この誤差をできるだけ少なくする必要があり、そのために必要な標本の人数は、400サンプル以上だといわれています。

定量調査で得ることができるのは、人数や割合、傾向値など、数値で表せる「定量データ」です。「はい・いいえ」で答えるアンケートや、「参加・不参加」の確認、5段階で評価する満足度調査などがそれにあたり、「何人が『はい』と答えたか」「何割が参加するか」「満足度の分布はどのようになっているか」などを把握できます。対象者が何を選び、何を選ばなかったのかを理解するのに有効です。企業は、自社商品に対する評価や、ユーザーのニーズがどこにあるのかなどを、定量データを用いて把握できます。

定量調査はあらかじめ選択肢が示されているため、回答にかかる時間が少なく済み、調査対象者の負担を軽減できます。回答方法が明快で答えやすく、気軽に受けることができる調査だといえるでしょう。そのため、一度に多くの対象者に対して調査可能です。また、定量調査で得たデータは数値化できるため、表やグラフを用いてまとめることができ、分かりやすく説得力のあるデータとして提示できます。過去の同様のデータとの比較や、複数の項目を組み合わせたクロス集計も容易です。コスト面では、インターネットを用いることで、大小さまざまな規模の定量調査を低コストで行えるメリットがあります。

一方で、得られたデータを的確に分析できなければ、ただの数字の羅列になってしまう恐れがあります。新商品の開発やサービスの改善といった具体的な目的に生かすためには、データの分析力、活用力が必要です。また、定量調査では、あらかじめ回答が決められており、その答えを選んだ理由や背景を知ることができないため、適切な選択肢を提示しなければなりません。提示する選択肢の内容によって、データの信ぴょう性が異なってしまうため、注意が必要です。

定性調査とは、数値として集計できない、行動に至る心理構造を調査する方法です。調査対象者を深く理解し、問題解決のヒントや新しいアイデアを得る目的で行われます。定量調査が広く浅く多くの人数を対象とするものであるならば、定性調査は狭く深く調査対象者を掘り下げる調査だといえるでしょう。対象人数は、少人数でも構いません。限られた人数の中で有効な回答を得ることが重要です。

定性調査では、行動や思考の奥にある、理由や経緯、価値観、印象といった質的データを得られます。たとえば、サービスを選んだ理由や商品の使い勝手、買い物をする際の動線なども、定性調査で得られるデータです。企業は、自社サービスや商品の利用者が「どのような目的で」「どのようなときに」「どのような使い方をしているか」といった、生の声を聴くことができます。

定性調査には、回答を選択した理由や背景を深掘りできるメリットがあります。調査の過程で気になったことは、その場で質問を重ね、調査対象者をより深く理解できます。データの中には、調査する側が想定していなかった回答も含まれるでしょう。実態に即したエピソードから、潜在的なニーズや新商品開発のアイデア、問題解決のヒントなどを発見できる点も定性調査のメリットです。

一方で、定性調査は時間や手間がかかり、調査対象者に対する負担が大きいと考えられます。一度に調査できる人数が限られるため、統計データとしての信頼性が低く、全体像をとらえるのには不向きです。また、調査に協力する際にプライベートに踏み込んだ回答をする場面が出てくると、正直に答えにくいという調査対象者もいるでしょう。こうしたケースではインタビュアーの力量が問われます。調査対象者の表情や行動を正確に分析できなければ、調査の効果が薄れてしまう恐れもあります。

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定量調査には主に以下の3つの調査方法が用いられます。

  • ネットリサーチ
  • 会場調査
  • ホームユーステスト
それぞれの特徴を確認しましょう。

ネットリサーチとは、Web上で実施する調査のことで、あらかじめ回答が選択肢として提示されている定量調査で行われます。調査対象者はアンケートモニターとしてサイトに登録していて、年齢や性別などの属性がすでに分かっているケースが多く、対象を絞った調査と、広範囲の対象者への調査の両方が可能です。具体的には、日用品の使用実態について、使用者の年齢層や性別、使用場所、使用ブランドなどの情報を調査・分析し、商品開発の事前調査や販売促進に生かす、といった活用法が期待できます。低コスト、スピーディーに実施できる点も特徴です。

会場調査とは、調査対象者を会場に集め、商品のCMを見てもらったり、商品を使用してもらったりして、リアルな評価を調査する手法です。会場に売り場を再現し、売り場でユーザーがどのような行動をとるかを調査する場合もあります。発売前の商品を外部に漏らすことなく調査したいときにも、会場調査は有効です。具体的な例としては、新発売のドリンクを調査対象者に試飲してもらい、商品満足度や競合商品との比較についてアンケートを行う、などがあります。

ホームユーステスト(Home Use Test)は、その名の通り、調査したい商品を家庭などに送付し、一定期間使用した後の評価を調査する方法で、発売前の商品がユーザーにどれぐらい受け入れられるかを把握したり、競合する他社製品と比較できます。自宅で調査を行うため、実際に利用されるシーンと同じ条件で調査を行うことが可能です。具体的には、化粧品のサンプルを一定期間利用し、使用前、使用後の肌状態の変化や、継続して利用したいかどうかなどの調査が行われています。

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代表的な定性調査の調査手法は以下の通りです。

  • デプスインタビュー
  • MROC
  • 家庭訪問
  • ワークショップ
それぞれの特徴を知り、自社に合う調査手法を選びましょう。

デプスインタビューは調査者と調査対象者が1対1で行うインタビュー形式の手法です。大勢の前では話しにくいテーマや、ひとりの対象者の意見をじっくりと深掘りしたいときなどに行います。意思決定に至る経緯や他人に左右されない本音を聞くことができる一方で、複数の人と話し合いながら議論を発展させていくことはできません。具体的には、貯蓄や投資、金融資産といった「お金の話」について、そのサービスや商品を利用している理由や、貯蓄額などに基づいた価値観を明らかにし、潜在的なニーズを探れます。

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MROC(エムロック)とは、共通する特定のテーマに関心を持つ人たちをオンラインコミュニティに登録させ、調査対象者同士の書き込みなどから傾向を探り、気づきを得る手法です。長期間にわたって調査を行いたい場合や、インタビュー調査に応じるのが難しい時間的な制約のある人を対象にするときに用います。文字による書き込みだけでなく、写真や動画の投稿が可能な点が最大の特徴です。具体例としては、KLMオランダ航空が自社の会員組織の顧客であり、競合他社の利用も行っている人を対象にMROCを立ち上げ、客室デザインや機内食の共同開発などに生かした例があります。参加者は匿名なので、自由に意見をいいやすい点もポイントです。

ホームユーステスト(Home Use 家庭訪問では、調査員が対象者の家庭を訪れ、商品やサービスが利用されている状況をつぶさに観察します。調査対象者本人だけでなく、家族の反応なども合わせて確認したい場合に有効です。調査対象者が意識せずに行っている行動や、インタビューによる聞き取りでは言語化されない事柄も把握できます。具体的には、乳幼児のいる家庭で知育玩具がどのように使われているかや、シニアが生活家電をどう活用しているかなどを知りたいときに使いやすい手法です。

ホームユーステスト(Home Use ワークショップは、さまざまな定性調査で得たデータを活用するために、企業内で行われます。データを事業に活用できていない場合や、調査結果を社内に広く浸透させたい場合に、定性調査と組み合わせて行うと効果的です。具体的には、データの中から必要な情報を抽出し、新商品や既存サービスに関わるメンバーで議論することなどがあげられます。

定量調査と定性調査はハイブリッドで活用できる!?

定量調査と定性調査はどちらかひとつしか実施できないものではなく、組み合わせることでより詳細で意味のあるデータを取れます。得られるデータの内容がそれぞれ異なるため、目的や獲得したい情報に合わせて組み合わせ、アプローチするとよいでしょう。調査を行う際には仮説を立て、それに基づいて質問を考える必要がありますが、定量調査と定性調査のどちらを先に行うかによって、仮説の立て方は異なります。

まず定性調査を行い、結果から仮説を立て、仮説から導き出した回答項目について定量調査を行い、調査対象者の評価を割合などの数値で明らかにする方法です。この場合、定性調査は、後に行う定量調査の仮説を立て、回答項目を決めるために行われます。最初から定量調査を行う場合は、市場の実態を十分につかんでおく必要がありますが、それが不十分な場合は定性調査で傾向を探るとよいでしょう。定性調査は、最終的に知りたいことが明確になっていれば、調査の過程で質問を柔軟に変えられます。デプスインタビューなどを行い、実態について詳しく掘り下げることで、後で行われる定量調査の対象者に的確な選択肢を提示でき、精度の高い結果を得ることが可能です。新しい市場の開拓や新商品の開発など、既存の調査データが少ない場合に効果的な方法です。

まず定量調査を行って全体像を把握し、その行動に至る経緯や理由を定性調査で調べるパターンです。定量調査によって調査対象者を絞ることができ、特定の層に対して定性調査を行って詳細を掘り下げられます。具体的には、ある商品を購入している人に対して、購入頻度や商品への評価についての定量調査を行い、頻繁に購入している層を対象に定性調査であるデプスインタビューを行う、といった例があげられます。過去に行われた調査結果や、インターネットで公開されている情報などを用いてあらかじめ仮説を立てるため、最初から定量調査を行うことが可能です。

ここでは、定量調査と定性調査の組み合わせ事例を2つ紹介します。

最初に行ったネットリサーチで、調査対象者の基本属性、洋服の購入方法、好みのブランド、愛読しているファッション雑誌などを分析し、新商品のイメージに合った調査対象者を絞ってからグループインタビューを行った事例です。洋服の新ブランドの立ち上げ時に、ターゲット層から精度の高い意見を聞くために行われました。グループインタビューでは、デザイン案に対する意見交換やサンプルの試着などを行い、デザインの決定や素材感に調査対象者の意見を最大限に反映させて商品を作った結果、商品のセールスポイントが明確になり、生産計画を立てる際に役立ちました。事前にネットリサーチを行っていたため、嗜好(しこう)や考え方があらかじめ分かっており、スムーズにグループインタビューを進めることができました。

ビデオダイアリーとは、一定の期間、商品の使用や行動の記録について日記形式で記録するもので、ショップアロングとは、調査対象者が店頭で商品を購入する様子を観察し、購入後にインタビューを行うものです。この事例では、食品メーカーが、店頭での購入決定と普段の調理スタイルとの関係を理解するためにビデオダイアリーとショップアロング調査を組み合わせて調査を行いました。まず、1週間の調理記録をビデオダイアリーで記録。ビデオダイアリーの結果から、調理スタイルは人によって大きく異なることや、どのようなシーンでどのようなメニューが選ばれているのかが明確になりました。さらに、知りたい情報について深掘りするために、30人の調査対象者を3人に絞ってショップアロング調査を進めました。ある調理スタイルの人だけを抽出することで、調理スタイルと購買行動の相関関係について、精度の高い有益な情報を得ることできた点が重要なポイントです。

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定量調査や定性調査とともに、ツールを活用することでユーザー理解の解像度が高まります。「IDレシートBIツール」は、顧客の購買行動の把握によって効果的なマーケティングに貢献するツールです。数万規模のお買い物レシートのデータを蓄積した「IDレシート」は、商品の買われ方や顧客の嗜好(しこう)、価値観などを把握でき、顧客やペルソナの可視化を実現します。また莫大(ばくだい)なデータを整理するBIツールによって、さまざまな業務を抱える多忙なマーケターでも求める情報の特徴を簡単につかむことが可能です。

さらに、POSデータでは見えづらかった自社商品の「買う人」と「買われた」をしっかりと把握できるため、自社と競合商品の実売価格・売上が確認でき、ペルソナの設定だけではなく、商談時の資料としても利用可能です。

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ユーザー調査には大きく分けて定量調査と定性調査があり、それぞれに多種多様な調査方法があります。事業に活用できる信頼度の高いデータを得るためには、どの調査方法を選ぶかが重要です。また、調査後にはデータを分析し、自社製品、サービスへの展開を行うことで調査は意味のあるものになります。消費者のニーズが多様化する中、定量調査と定性調査を駆使して、他社と差別化をはかることが重要になると考えられます。

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