ID-POSとPOSの違い

ID-POSとは?
POSとの違いやデータ分析手法、活用事例をご紹介

効果的なマーケティング施策を行うためには、消費者の意向や行動を把握することが大切です。ID付きのPOSデータで「誰が購入したのか」がわかるID-POSデータを取得し、マーケティングに役立てたいと考えている企業も多いのではないでしょうか?

しかし、ID-POSシステムを導入することが直接売上アップに繫がるというわけではなく、得られたデータをいかに分析して活用するかが大きなポイントになります。

そこでこの記事では、ID-POSとはどのようなものなのか、POSとの違いやメリット・デメリット、ID-POSで取得したデータの分析手法や実際の活用事例について解説していきたいと思います。

まず最初に「ID-POSとは何か」について解説していきます。

「ID-POS」の「POS」とは「Points Of Sales/ポイント オブ セールス」の頭文字をとったもので、商品が会計されたときに記録されるデータの総称です。

POSシステム搭載のレジやハンディターミナル、スマートデバイス等から収集された以下のような情報がPOSデータに含まれます。

・購入された商品名
・購入された商品の価格
・購入された商品の個数
・購入店舗
・購入日時

これらの情報に、性別・年代・購入履歴などの「ID(顧客ID)」が紐づいたデータを「ID-POS」と呼びます。自社のポイントカード・アプリや、キャッシュレス事業者が展開する決済アプリやアプリ等を連携することで取得できるようになります。

POSデータとID-POSデータの違いは「顧客情報連携の有無」にあります。

【比較】POSデータとID-POSデータ
●POSデータ
・「商品」が軸
・ 「売上」「利益」の管理に利用される
・いつ/どこで/何が/ 何と一緒に/ いくつ/ いくらで売れたのか

●ID-POSデータ
・「商品」+「顧客」が軸
・「顧客の管理・育成(CRM)」「顧客のペルソナの理解」「販促企画の事前調査」などに利用される
・いつ/どこで/何が/ 何と一緒に/ いくつ/ いくらで売れたのか+どんな人が/どんな頻度で購入したか/どんな購買行動の変化があったか


ID-POS_図1

このように、POSデータだけの分析では見えてこなかった、顧客ごとの購買行動の変化まで浮き彫りにできるのがID-POSデータです。

ID-POS活用の最大のメリットは、データに基づいた顧客の管理・育成(CRM)が可能になることです。消費者のニーズや趣味嗜好が多様化し、パーソナライズされた商品サービスの提供が求められている今、顧客をマス(集団)で捉える従来のマーケティング手法では太刀打ちができません。

そのような状況下において、顧客を適切にカテゴリ分けし、多様なニーズに対応できる商品開発・販促活動を実施するために、顧客情報を詳細に、かつリアルタイムで捉えることができるID-POSデータ活用は、今や事業成長の要といっても過言ではありません。

しかし、ID-POS活用には以下のようなデメリットもあり、導入を見送らざるをえない企業も少なくありません。

導入コストが高い
ID-POSシステムの導入費用や既存POSシステムとのID連携にかかる開発費用は決して安くはありません。費用対効果を鑑みて、導入を見送るケースも多々あります。ただし、近年では、月額サービスや、導入しやすいタブレット形のものなども登場していますので、一度、リサーチをしてみても良いかもしれません。

分析の難易度が高い・時間がかかる
情報をただ収集するだけでは、売上アップ施策につなげることはできません。 さまざまな視点で分析を行い、仮説を立てながら販促施策の企画立案をしていくには、経験ある人材の確保と、ある程度の分析期間が必要です。つまり、ID-POSシステムを導入したからといって「明日の売上が即座に作れる」というわけにはいかないのです。

ですが、AI技術を活用し、効率よく分析を進められるサービスも出てきているので、このデメリットの一部は払拭されつつあるようです。

自社チャネルの購買データに限定される
ID-データ収集は、自社の販売チャネルにおける決済時や、会員アプリ・サービスの利用時などに限られるため、自社内の分析にとどまります。競合他社との比較分析や、商圏全体を俯瞰した購買行動の把握には向いていません。

最近では、店舗や業態を横断した流出入や買い回りが俯瞰して分析できる「IDレシートBIツール」などのサービスも出てきており、市場や商圏での消費行動分析ができるようなものもあります。

ID-POSで取得したデータ

POSデータもID-POSデータも、分析・活用の目的は店舗での販売促進です。POSデータよりも多面的な分析が可能なID-POSデータを活用して売り上げアップにつなげるためには、商品軸・顧客軸の2つの視点から分析することが効果的です。それぞれについて詳細を解説します。

ID-POSデータを商品軸や購入者の性別・年代・購入頻度などと連携して分析する代表的な手法には「バスケット分析」「ABC分析」があります。

バスケット分析
一回の購入において、一緒に購入されやすい組み合わせを分析する手法で、店舗での販促・棚割などに活用されます。例えば、

・カレーの具材となる野菜の棚にカレールーを置く
・アルコール飲料の近くに、おつまみコーナーを設ける
・お弁当とドリンクは同じエリアに陳列する

などは、バスケット分析の結果に基づいた陳列方法といえます。
ここに、購入者の性別・年代・購入頻度などが連携されればそのターゲットを想定したPOPの設置や新しい棚の展開などに活かすことができるでしょう。特に、ターゲットの年代や性別、来店頻度の高いユーザに絞ったバスケット分析はとても有効です。

詳細記事:バスケット分析とは?概要や分析手法を解説

ABC分析
ABC分析とは、売れ筋ごとに「主力商品、準主力商品、非主力商品」の3つに分けて商品分析を行う手法で、販売強化につながるメニューや商品の改定・開発に活かすことができます。

例えば
・人気の高い主力商品を参考に類似メニューや商品を検討する
・販売側が認識していなかった「隠れ人気メニュー・商品」が見つかったら、看板メニューとして大々的に販促施策を検討する
・売れ行きの悪い非主力商品は、なるべく早くメニュー表や陳列棚から下ろして別の主力・準主力商品に差し替える

さらに、顧客データが連携されている場合は、属性ごとに人気の主力商品を分析し、ファミリー向け、単身向け、シニア向け、など、新たな商品開発・販促活動に活かすことも可能です。

詳細記事:ABC分析とは?マーケティング強化を実現する活用方法を紹介

ID-POSデータを顧客軸で分析する代表的な手法には「デシル分析」「RFM分析」があります。

デシル分析
デシル分析は、購入金額で顧客をランクづけする方法です。具体的には、ある一定期間の顧客別購入金額をリスト化し、顧客数を10等分してグループ分け(デシル1〜10)をします。

各グループの購入比率や売上構成比などを分析することで、売上貢献度の高い顧客層を見つけ、販促施策の企画等に役立てたり、自社の売上構造を把握したりするために使われます。

ただし、デシル分析にはデータ抽出する期間によって、分析結果が異なってしまうという難点があります。これを解決するのが、次に紹介するRFM分析です。

詳細記事:デシル分析って何?マーケティングの効果測定を簡単に行う方法

RFM分析
RFM分析は、「Recency(最終購入日)」、「Frequency(購入/来店頻度)」、「Monetary(購入金額)」という3つの指標で顧客をランクづけする手法です。

・Recency:最終購入日が2年前の顧客よりも6ヶ月前に購入履歴のある顧客の方が、再購入の確率が高いと考えられます。
・Frequency:ある一定期間に1度だけお試し購入した顧客よりも、10回購入した顧客の方が、今後の購入意向が高いと推測されます。
・Monetary:デシル分析と同様、一定期間の購入金額を軸に顧客を数値化します。

この3項目を仮説に沿ってクロス集計後に「優良顧客」「休眠顧客」「新規顧客」などと顧客を分類し、それぞれに対する販促施策を実施していきます。優良顧客向けのファミリーセールや先行販売、休眠顧客向けのノベルティ付き再来店キャンペーンなどが、その一例です。

詳細記事:RFM分析とは何?概要や特徴、やり方などを具体的に解説

ID-POSデータは膨大な量がリアルタイムで蓄積されていくため、人力で集計・分析するよりも、AIに学習させてアウトプットさせた方が効率的です。近年、急速に普及しつつあるAI技術とID-POSデータの分析は相性が良く、AI導入により分析スピードは格段に向上します。

AIは、データの類似度をもとにデータをグループ分けする「クラスタリング」を得意としているため、繰り返し購入されている商品データと、その商品を購入している顧客データを掛け合わせて、傾向性を示唆することが可能です。その分析結果から、顧客がリピートするきっかけを探ることができれば、POPの掲示や試食試飲の実施、お試し価格やノベルティの設定などに活かして、顧客がリピートしやすい環境を再現できるのです。

ID-POSのデータ活用をスムーズに行うためには、以下のポイントについて留意する必要があります。

すでに導入されているPOSシステムにIDを連携する場合などは特に、拡張性のあるデータフォーマットにしておかないと、後の分析作業に支障をきたします。そのためには、ID-POSデータの活用目的を明確化し、どんな分析結果を誰と共有したいのかなど、具体的に想定した上でシステム設計・導入を検討すると良いでしょう。

さまざまなツールが提供されていますので、デモ機やサンプル画面を確認しながら、作業者が使いやすいツールを選択しましょう。レジでのデータ入力の操作性だけでなく、収集したデータをどんな形でアウトプットできるか、という分析作業者視点での使い勝手も忘れてはいけません。

システム提供会社によって、導入後のサポート体制・サポート範囲は異なります。システムを適切な状態に維持するための運用方法、不具合が起きた場合の対処方法など、事前に確認し必要なサポートを含めての導入検討がおすすめです。

導入してから後悔しないように、慎重に事前検討することをおすすめします。

最後に、ID-POSデータを活用した3社の事例をご紹介します。

トライアルカンパニー
スーパーセンターを中心に国内263店舗を展開しているトライアルカンパニー。ID-POSデータを元に顧客の属性分類し、対象を絞り込んでレシートクーポンを配信することで、従来の「ばら撒き」ではなく、One to Oneマーケティングを実現。また、配信ターゲットが明確になることで、他業界メーカーとのタイアップ提案もしやすくなり、積極的にコラボーレーション企画を行っているそうです。

また、タブレットがついた「スマートレジカート」を導入し、顧客ごとにパーソナライズされたクーポンやおすすめ商品が表示されるシステムも導入しています。

詳細記事:売上増の兆しを追求 ID-POS活用セミナー

カルビー株式会社
新商品発売に伴い、セブンイレブン限定でレシートを使ったマストバイキャンペーンを展開。 セブンイレブン店舗で該当の商品を購入の上、同社キャンペーンサイトからレシート画像を投稿すると、抽選で総計約50万円分のnanacoポイントが当たるという内容です。
応募に使われたレシートのデータ化と分析まで出来るため、お客さまの購買傾向を“見える化”することができ、今後の商品開発やマーケティング施策の活用にも繋がっていきます。

詳細記事:お客さまの生活実態に迫る、カルビーの取り組み 身近なレシートが実は “ 情報の宝庫 ” 顧客理解深まるIDレシート活用マーケティング | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議

安曇野食品工房
ID-POSデータのバスケット分析で、とある商品のフレーバー毎の顧客属性を分析。商品カテゴリにとらわれず併売商品を俯瞰していく中で、「家族構成や食の好みまでが手にとるように見えてきた」とのこと。実情に基づいた顧客理解は、より的確な商品企画や販促施策の立案につながっているそうです。

詳細記事:コンビニでの購買全体像がリアルに視(み)えました

ID-コンビニ マーケティング_図1

"IDレシートデータ"では業態やチェーン、カテゴリを横断した買い回り分析を行うことが簡単に行えるBIツールです。
流通横断かつユーザ軸での貴社/競合ユーザ様の購買動向の違いが分かります。
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それでは具体的に「IDレシートデータ」から、どのような分析が可能なのか、実際の分析事例を紹介しましょう。

「IDレシートデータ」の分析レポート記事では、コンビニキャンペーン効果を分析したものがあります。ID-POSの活用において、「キャンペーンの効果検証」はニーズが高いと思われますので、下記を参考にしてみてください。

このレポートでは、ファミリーマートが実施した「お値段そのまま!! 40%増量作戦」というキャンペーンの効果検証をしています。

「お値段そのまま!! 40%増量作戦」とは、2022年8月2日(火)から全国のファミリーマート約16,600店で開催した食料品の「40%増量キャンペーン」です。お惣菜やおむすび、サンドイッチ、ホットスナック、スナック菓子など全20種類の対象商品が、3週間週替わりで販売されました。

キャンペーンの効果測定として、まずは40%増量にした週とその前の週で、対象商品はどれくらい購買数が異なるのかを商品カテゴリ別に検証しました。


【カウンターフード】

カウンターフード

「クリスピーチキン」は632%と6倍の購買数に、「スパイシーチキン」は400%で4倍に、牛肉コロッケの「ファミコロ」は302%の3倍と、大きく購買数を伸ばしています。


【サンドイッチ&おにぎり】

カウンターフード

「テリヤキチキンとたまごのサンド」は638%で伸び率が最も高くなっています。「ツナたまごサンド」も630%と、サンドイッチはどちらも6倍以上の増加となります。

そしておにぎりの「直巻明太子マヨネーズ」が246%、「直巻焼しゃけ」が225%と、サンドイッチの6倍以上と比較するとゆるやかですが、2倍以上に購買数を伸ばしています。 各商品、増量することで購買数を伸ばしている状況が確認できました。

では、40%増量の対象商品は、どのような方が購入したのでしょうか。
IDレシートデータは、家計簿アプリで取り込まれるデータだからこそ、購入者の属性が分かります。「家計簿全体(登録者全体)」と、「ファミリーマート利用者」そして「40%増量商品購入者」を比較して特徴を見ていきます。

【年代】
まず特徴的だったのは、男女の「年代」差です。
「女性」は30代だけが3ポイント高いのに対し、「男性」は20代が4ポイント、30代が2ポイント、40代が3ポイントと、40代までが高くなっていることが分かります。


男女による世代差

男女による世代差

【職業】
職業は、男女ともに「会社員」が多くなっています。
「ファミリーマート利用者」と比較して「40%増量商品購入者」の「会社員」は、女性で5ポイント・男性で4ポイント高いことが分かります。


職業(女性)

職業(女性)

職業(男性)

職業(男性)

このように見てみると、「40%増量商品購入者」は、「ファミリーマート利用者」と比較して下記のような特徴があることが分かります。

・年齢層は男性では20~40代が高く、女性は30代だけが高い
・職業は会社員が女性で5ポイント・男性で4ポイント高い

また「40%増量商品購入者」が、普段どのような外食チェーンで食事をしている傾向が強いのかを見てみましょう。「40%増量商品購入者」が、「ファミリーマート利用者」と比較して高く出ているTOP15が下記の外食チェーンです。


利用外食チェーン店

利用外食チェーン店

大きく差がついているのが、「マクドナルド」の2.9ポイント差と、「すき家」の2.3ポイント差です。それ以外も、「吉野家」「かつや」などのファストフード、「ほっともっと」などのお弁当チェーンの名前も確認できます。

「40%増量商品購入者」は、「ファミリーマート利用者」と比較すると、リーズナブルにガッツリ食べられる系のファストフード利用率が特に高いことが見えてきました。

このように販売チェーンをまたいで、ある商品購入者が他店でどのような購買行動をとっているかまで分析できるのは、「IDレシートデータ」が、レシートデータと購買者のプロフィールデータと紐づいているからです。

この先このレポートでは、「キャンペーン後に購買数が伸びた商品」や「競合チェーンから顧客を奪えたのか」についても深堀しています。続きは、下記のURLからご覧ください。
40%増量キャンペーンは、どのような効果をもたらすのか

上記のように、公開しているIDレシートデータの分析レポートでは、様々な視点での分析例が掲載されています。マーケティングにおけるデータ分析のヒントとして、ぜひご活用ください。

以上、ID-POSデータの基礎知識から、活用のメリット・デメリット、取得データの分析手法や活用事例などについてご紹介しました。
企業が継続して利益を出すためには、顧客のニーズをきちんと把握することが大切です。
ID-POSデータやIDレシートデータなどの情報を有効活用することで、マーケティングの精度を高められます。売上向上・事業拡大を目指して、効果的なマーケティング施策を行う上で、効果的なID-POSデータ活用の導入検討の参考になれば幸いです。

「IDレシートBIツール」の詳しい情報はこちらをご覧ください。

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